みぞれのブンガク [文学]

DSC_0129.JPG




2月最後の日みぞれが降りました。


夏に宮沢賢治記念館で自筆の原稿見て感動した「永訣の朝」

以前から聞いていた
「兜率の天の食(じき)に変わって」という箇所が
最初は
「天のアイスクリームに変わって」
となっていたのを見ることが出来ました。

みぞれが降ると思い出します。
少し長いのですが「永訣の朝」お付き合いください。


永訣の朝

宮沢賢治

けふのうちに
とほくへいってしまふわたくしのいもうとよ
みぞれがふっておもてはへんにあかるいのだ
      (あめゆじゆとてちてけんじや)
うすあかくいつさう陰惨な雲から
みぞれはびちよびちよふってくる
      (あめゆじゆとてちてけんじや)
青いじゅんさいのもやうのついた
これらふたつのかけた陶椀に
おまえがたべるあめゆきをとらうとして


わたくしはまがったてっぽうだまのやうに
このくらいみぞれのなかに飛びだした
      (あめゆじゆとてちてけんじや)
蒼鉛いろの暗い雲から
みぞれはびちょびちょ沈んでくる
ああとし子
死ぬといふいまごろになって
わたくしをいつしやうあかるくするために
こんなさっぱりとした雪のひとわんを
おまへはわたくしにたのんだのだ
ありがたうわたくしのけなげないもうとよ
わたくしもまつすぐにすすんでいくから
     (あめゆじゆとてちてけんじや)
はげしいはげしい熱やあへぎのあひだから
おまへはわたくしにたのんだのだ
銀河や太陽 気圏などとよばれたせかいの
そらからおちた雪のさいごのひとわんを……
……ふたきれのみかげせきざいに
みぞれはさびしくたまってゐる
わたくしはそのうへにあぶなくたち
雪と氷とのまっしろな二相系をたもち
すきとほるつめたい雫にみちた
このつややかな松のえだから
わたくしのやさしいいもうとの
さいごのたべものをもらつていかう
わたしたちがいつしよにそだつてきたあひだ
みなれたちやわんのこの藍のもやうにも
もうけふおまへはわかれてしまふ
(Ora Orade Shitori egumo)
ほんたうにけふおまへはわかれてしまふ
あぁあのとざされた病室の
くらいびやうぶやかやのなかに

やさしくあをじろく燃えてゐる
わたくしのけなげないもうとよ
この雪はどこをえらばうにも
あんまりどこもまつしろなのだ
あんなおそろしいみだれたそらから
このうつくしい雪がきたのだ
     (うまれてくるたて
     こんどはこたにわりやのことばかりで
     くるしまなあよにうまれてくる)
おまえがたべるこのふたわんのゆきに
わたくしはいまこころからいのる
どうかこれが兜率の天の食に変わって
やがてはおまへとみんなとに
聖(きよ)い資糧(かて)をもたらすことを
わたくしのすべてのさひはひをかけてねがふ



この詩は賢治の2歳年下の妹トシの命が今まさに消えようとする際の詩です。
このとき賢治はこの「永訣の朝」「松の針」「無声慟哭」という3編の詩をつくります。


賢治は花巻の財閥ともいえる裕福な家に生まれ、金融業という生業から逃れるように
農民への、あるいは人類への愛を求めたとも言われています。
この思いが信仰(法華経)への道を深めていくことにもなります。
理想の世界(イーハトーブ)を願い、芸術と宗教の融合を目指した賢治。
トシはそんな賢治のたった一人の理解者でした。

「セロ弾きのゴーシュ」はご存知ですね。
ゴーシュのチェロに癒される動物たち。
「よだかの星」ではみにくいためにみんなから嫌われるよだかが、
最後には「こゝろもちはやすらかに」「すこしわらって」ついに星となって輝きます。

自己犠牲。

トシと賢治の心はいつもともにありました。
詩の中の(あめゆじゆとてちてけんじや)は
「賢治さん雨雪をとってください」というトシのことばです。
またローマ字で記された、まるで聖なる言葉のような
(Ora Orade Shitori egumo)は
「私は私は一人で天に行きます」の意味。
最後の( )もトシの言葉。
「今度、生まれてくる時はこんなに自分のことばかりで悩まないように(人々のために悩むように)生まれてくる」



花巻弁で朗読されたものを聴いたことがあります。

深い

深い

悲しみと絶望


でもそれだけでない
妹に対する崇高な想い
生きる道



宮沢賢治の「雨ニモマケズ」を
娘が小さかった時、一緒に暗誦しました。

意味がわからなくても言葉に出して音にのせることで身体に入っていくものがあります。
「永訣の朝」是非朗読で聞いていただきたいです。

あるいは

声に出して詠んでみてください。



長岡輝子、宮沢賢治を読む 第2巻 (草思社カセットブック)

長岡輝子、宮沢賢治を読む 第2巻 (草思社カセットブック)

  • 作者: 宮沢 賢治
  • 出版社/メーカー: 草思社
  • 発売日: 1987/10
  • メディア: 単行本



雨ニモマケズ にほんごであそぼ

雨ニモマケズ にほんごであそぼ

  • 作者: 齋藤 孝
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2005/04/26
  • メディア: 単行本



永訣の朝―宮沢賢治詩集 (美しい日本の詩歌 11)

永訣の朝―宮沢賢治詩集 (美しい日本の詩歌 11)

  • 作者: 宮沢 賢治
  • 出版社/メーカー: 岩崎書店
  • 発売日: 1996/07
  • メディア: 単行本



nice!(13)  コメント(8)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 13

コメント 8

aurora

数か月前、「雨ニモマケズ」を読み返す機会がありました。
今までは特にあまり心に入ってくる感じではなかったのですよね~ww
でも今回はあんなに一生懸命みんなのためにやってでくの棒と「呼ばれたい」と言うんだからスゴイ!!と思っていたところだったのです。

妹のトシも人のために丈夫で生まれてきたいという…
自己犠牲…でも犠牲とは思ってないのでしょうね、本人は。

そんな風にはなかなかなれないけれど、そんな風になれたらいいなぁ~と思い続ける人に私はなりたいですww


by aurora (2011-03-02 00:21) 

つる

この詩大好きでした。
小学校の頃に親が買い与えてくれた宮沢賢治の詩集に取り上げられていて、この詩だけを何度も繰り返し読んだので、そのページだけが開ききったような状態になってしまいました。
賢治の妹に対する深い愛。大切なものを失う悲しみ。雪の白さ(=清らかさ)、雪の儚さ(=消えようとしている命)。朝の静けさの中、際立つ不幸・・。
小学校半ばの頃だったと思いますが、そんなものを十分に感じ取る事ができました。

久々に読んで、やはり感動しました。
by つる (2011-03-02 01:23) 

madamM

auroraさんコメントありがとうございます。
雨ニモマケズは賢治のメモで、詩ではなかったことが、伝えられていますが、そんなことはどうでもいいほど私達の心をうちますよね。私も、でくのぼうといわれても…で感動してしまうのですが、やはり年を重ねてるからでしょうかねぇ。声に出して読みたいですよね。

by madamM (2011-03-03 17:34) 

madamM

つるさんコメントありがとうございます。
無声慟哭にしようかとも思ったのですが、ora orade shitori egumoの音の響きが好きなのでこちらにしました。
ホント好きな詩です。声に出して読むとじーんときます。
by madamM (2011-03-03 17:41) 

はくちゃん

こんにちは
いつもありがとうございます。
やっといつもの更新に戻りました
今日は、nice! だけでごめんなさい
m(_ _)m


by はくちゃん (2011-03-04 14:17) 

月夜のうずのしゅげ

はじめまして
時々訪問させて下さい
宮沢賢治の童話も読み返したいと思っています
by 月夜のうずのしゅげ (2011-03-05 07:15) 

madamM

はくちゃんさんコメントありがとうございます。
出張お疲れさまです。久しぶりの散歩、わんこは喜んでますか?
by madamM (2011-03-05 21:09) 

madamM

月夜のうずのしゅげさんコメントありがとうございます。
ブログ拝見させていただきました。お着物や映画、詩についての私見大変興味深く、私のつれづれなる記録も、読んでいただけてとても嬉しく思います。
宜しければおつきあいください。
by madamM (2011-03-05 21:28) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。